なぜ、患者は薬を飲まないのか?

なぜ、患者は薬を飲まないのか?

医療業界で「なぜ、患者は薬を飲まないのか?」というテーマが論じられることになった背景には、イギリスの王室薬剤師会の研究がありました。それは、スコットランドでの調査により、処方された薬の多くが実際には服用されていない事実が判明したことがきっかけでした。

 

例えば、降圧剤を処方された患者の服薬率は5年後には約半分に、高脂血症の薬の場合は1年半後には約3分の1になります。この傾向は世界各国で共通しています。
日本のみのデータを見ると、処方された薬を最初から全く服用しない人が3分の1程度存在します。処方された分量を残薬なく正しく服用する人は全体の3分の1程度にすぎません。

 

捨てられている薬剤費
日本では、処方された薬の3分の2が指示通りに服用されていないことになります。全国の調剤薬局の薬剤費の総計は5兆2444億円です(平成25年度)。これは、5兆2444億円のうち、適切に使われた薬は約1兆7500億円分しかないことを意味しています。つまり、約3兆5000億円分の薬はまったく使用されていないか、あるいは不適切に使用されたかもしれないということです。薬剤費の7割以上は税金から支出されています。つまり、低く見積もっても2兆4500億円分の税金が無駄になっていると言えます。

 

使われなかった薬は、基本的には回収ができません。これを残薬といいます。福岡市などでは残薬を回収して再利用する試みが始まっていますが、全国規模ではまだ一般的ではありません。残薬の多くはゴミ箱行きとなります。つまり、少なくとも2兆4500億円分の税金がゴミ箱行きとなるのです。2兆4500億円、あるいは約3兆5000億円という金額は、製薬企業がこれら残薬によって得た利益ということになります。
薬が正しく使用されていれば治癒したはずの病気が、悪化したり、長引いたケースはどれほどあるでしょうか。さらに、悪化したり、長引いた症状のために使われた薬剤費はどれほどの金額になるでしょうか。

 

患者が「薬を正しく飲もう」と考えるか、あるいは「飲まない」と決めてしまうか。それは薬剤師とのコミュニケーションが良好であるかどうかにも大きく影響されています。そうであるならば、薬剤師の最も重要な役割とは、患者との間に良好な信頼関係を構築することだと言えます。患者が薬剤師のアドバイスを信頼できず、服薬の意味と効果を理解できなければ、処方された薬の3分の2はゴミ箱行きとなってしまうからです。きちんと正確に、ミスなく調剤したにも関わらず、病気の治癒は遅れることになるのです。