患者は、薬を飲みたくない

患者は、薬を飲みたくない

 なぜ、患者は薬を飲まないのか。この理由について、私たち医療者は大きな勘違いをしています。基本的には、患者は薬を飲みたくないのです。それは感情的な理由だけでなく、副作用などへの心配も含みます。そして結果的に、服薬量を自己調節したり、全く飲まなかったりするのです。医療者側は、「患者は処方された薬を飲みたいはずだ」と考えているものですが、それは大きな勘違いなのです。

 

 医療者は「患者は、薬の効果をきちんと理解すればきちんと服薬するはずだ。だから、きちんと服薬指導をするのだ」と考えます。しかし、それはコツコツと受験勉強をし、コツコツと勉強して国家資格をクリアしてきたタイプの人の典型的な思考といえます。一般の多くの人々は「頭では分かっている。でも、私はやらなくてもいいかな」と結論を出すことが多いのです。まずは、医療者側がこのズレを認識する必要があります。
 医療者は、「必要なら・・・××する」「そうするべきなら・・・××する」「理解しているなら・・・××する」と考えます。しかし一般の人々は、理解をしても実行するとは限りません。一部の人を除き、薬が必要だと分かっても服薬はしないのです。実際に、多くの人々が体に悪いことを理解していても煙草をやめませんし、添加物たっぷりだと知っていてもスナック菓子を食べます。なにかと理由をつけて、酒も飲みます。その理由は、「吸いたいから」「食べたいから」「飲みたいから」です。
 なぜこうなるのか。それは、人間の脳がそのようにできているからです。人間は、したくないことは出来ないようになっているからです。多くの患者にとっては、「治りたい」ということと「薬を飲む」ということは別問題なのです。要するに、「治りたいけれど、飲みたくない」というのが、患者の本音です。
 これは、医療者にとっては衝撃的な事実です。「そんなバカな!! 飲まなければ治るわけがないだろう!」と思うかもしれませんが、事実です。世の中には、「痩せたいけれど運動はしたくない」という人々が多い状況を考えれば、みなさんも患者側の思考を理解しやすいかもしれません。

 

 

「できれば、薬を飲まずに治りたい」
 患者がなかなか薬を飲んでくれない。このような経験を重ねた医療者は、患者の多くが協力的とは限らないことを知っています。でも、それだけでは不十分です。先にも述べましたが、多くの医療者は「患者は薬を飲みたがっている」と誤解しています。ハッキリ言いますが、これは医療者の勘違いです。もっとハッキリ言えば、「患者は薬を必要としているが、飲みたくはない」のです。重要だから、再度繰り返します。

 

「患者は、薬を飲みたくない」

 

 私がこの事実を医療者に伝えると、多くの場合「いやいや、患者は薬を飲みたがっている」と反論されます。しかし、何度も繰り返して恐縮ですが、それは勘違いです。医療者はなぜこのような誤った結論に至るのか。それは「患者は病気を治したいから受診している。だから薬を飲みたいはずだ」という誤った仮定に基づいているからです。
 ごく一部には、この仮定が成り立つ患者も存在します。ある特殊な層の人々です。それは医療者や大学教授です。彼らは自分たちの常識を患者にも当てはめて「薬を飲みたいはずだ」と単純に考えているだけです。

 

 実は、自身の病態について知識を持たない患者にとっては、

 

「薬は、病気と同じくらい怖い」

 

ものです。だから、

 

「できれば、薬を飲まずに治りたい」

 

というのが本音なのです。風邪の症状の多くは、薬を飲まなくても治ることは事実です。一般的に、世の中の多くの人々には、「寝て治した」「栄養ドリンクが効いた」「自然と治った」などの経験があるものです。みなさんのもとにやって来る患者の多くにもこのような経験があり、病気に対する自己流の考え方を持っているものです。

 

 要するに「薬を飲んで病気を治す」という考え方は、医療者に特有の特殊な考え方である、ということです。