患者参加型医療研修について

薬剤師の役割

薬剤師と患者のすれ違い
 私は、現在の医療における薬剤師と患者の関係性は、「それなりに意思疎通ができている」関係にあると考えています。「それなりに」とは、患者と看護師、患者と医師など、「その他の医療専門職と比較すれば、まだ、まし」という意味です。薬剤師は患者に比較的近い位置に存在していると思います。しかしながら、この「比較的意思疎通ができている」はずの患者と薬剤師の関係ですら、実は「双方の言いたいことのほとんどは伝わっていない、もしくは誤解されて伝わっている」ことが状況だと感じています。

 

 

薬局側のさまざまな勘違い
 医療者側は「患者は薬を飲みたいはずだ」と考えがちだが、それは誤解であることを第1章で説明しました。患者は薬を飲みたいのではなく、病気等の悩みを解決したいのです。そのために薬を必要とすることもありますが、多くの患者は「できれば薬を飲まずに治したい」と考えているものです。同様に、薬剤師は「患者は薬が欲しくて薬局に来る」と考えますが、患者は「薬が必要だから、仕方なく、やむを得ず薬局に行く」のです。また、一般に「薬をもらう」という表現がされますが、実際には患者は「薬を買う」のです。患者が無料で薬をもらえることは実際にはありませんが、薬剤師側にも「薬を売る」という意識は希薄です。この傾向は調剤薬局や病院の薬剤師に特に顕著です。

 

 薬剤師は「患者は長い待ち時間を嫌う」と考えていますが、実際には「待合室の居心地が良くないから、長く過ごしたくない」だけです。多くの患者は、居心地の良い待合室であれば多少の待ち時間を気にはしないものです。
 本当に待ち時間を嫌う患者は、カウンターに処方箋を預け、後の都合の良い時間に薬を取りに行ったりします。待つことが嫌なのに待合室で待つことを選択する患者の多くは、再度足を運ぶことを面倒に感じたり、こうしたシステム自体を知らなかったりすることが多いです。近年ではスマートホンのアプリケーションでも呼び出しができるようになっていますが、こうしたIT技術の活用に対する薬局、患者双方の理解が足りないケースも多く、いまだにTVや雑誌のみで待ち時間に対応している薬局も数多く存在します。

 

 

コミュニケーションギャップ
 薬剤師と患者との間にはコミュニケーションギャップが存在します。薬剤師が患者に伝えている情報と、実際に患者に伝わっている情報との間に大きな差が生じているのです。その主たる原因には、伝える情報量が多すぎること、患者の持つ背景などに対する理解不足、接客時間の短さ、などが挙げられます。

 

情報量の多さ
 薬剤師から患者に伝えるべき、とされている情報は非常に多いです。しかし薬剤師が患者へ10の内容を説明しても、患者が理解できる内容は1~2割程度であり、残りの8~9割は伝わっていないことが実情です。しかも、場合によってはわずかな情報が誤解の上で受け取られる事も大きな問題になっています。処方された薬が1種類のみであっても誤解なく情報を伝えることは非常に難しいものですが、多くの場合、一度に処方される薬は複数です。患者が受け取るべき情報量は爆発的に多くなり、これがさらに誤解を招く事態を呼びます。
 例えば、患者が「効果」についての説明を意識した場合、先ほどまで覚えていた「副作用」や「用法用量」についての情報を忘れてしまうことがあります。しかし、懸命に説明をする薬剤師は、患者がそのような状態にあることをなかなか理解できません。
 専門家である薬剤師が薬の説明を行うことは簡単なことですが、「その患者にとって分かりやすい方法で説明する」ことは別のスキルと言えます。

 

 「その患者にとって」の部分は、後述するとして、わかり

 

 医師と患者、医師と薬剤師の連携が上手くできていないためにギャップが生じるケースもあります。
 実際にあった適応外処方の例を挙げましょう。医師が「エスベリベン」という痔の薬を、冷え性の改善を期待して処方しました。適応外処方とはこのように、薬が持つ本来の目的とは違う効果を期待する方法です。しかしこのケースでは、薬剤師は患者に対して「エスベリベンは痔の薬」だと説明し、冷え性で受診した患者は意味が分からずトラブルになりました。
 この例では、
・医師が患者へ、本来は痔の薬であるが、冷え性にも効果があることを伝える。
・医師が薬剤師へ、処方の意図を伝える。
このどちらかができていれば起きなかった問題です。

 

 このようなコミュニケーションギャップが問題視されている中、処方箋への臨床検査値データの記載を希望する薬局が増えています。しかし、そのデータを有効に活用しきれていない薬局が多いのが現状です。コミュニケーションギャップ解消のための努力ではあるものの、まだ表面的な動きにすぎません。

 

 コミュニケーションギャップが起きる背景には、薬剤師と患者との間に知識のギャップが存在することが挙げられます。薬剤師は薬のことをよく知っていますが、患者の事はよく知らないのです。患者は自分の事をよく知っていますが、薬のことはよく分かりません。
薬剤師側がギャップをできるだけ無くすために必要なことは、患者の背景を知るための観察やコミュニケーションを心掛けることです。患者が歩く姿を観察し、入店後はすぐに話しかけてコミュニケーションをとる。近年では、こうしたことを接客の基本とする薬局も増えています。薬剤師が患者の背景を理解し、その人の状況や性格に合った、分かりやすい説明を心掛けること。これだけでも、コミュニケーションギャップは解消できる方向に向かいます。